Dear

written by たけのこ

ネタバレ: 15~18章まで

初めに、この誕生日SSは多くのネタバレを含んでおります。読まれる方にとって制限がかかる作品となってしまい申し訳ございません。
ネタバレは以下の通りです。 メインストーリー全て1章~18章のネタバレあり。 デート「インタビュー」、「フランスの旅」、「業務報告」、「夜の屋上」、「クルージング」、「終末の日」のネタバレあり。 ハロウィンのゼンの通話ネタバレあり。
このSSは18章の直後のお話です。 そのため、18章を読了されていない方は、読了されてからこのSSを読まれた方が楽しめるかと思います。 またメイン以外で、ゼンのデートのネタバレも少し含んでおります。ネタバレが大丈夫でない方は、上記ネタバレ対象を読了されてから、お読みください。 前半は少し切ないので、ご注意ください。 全てゼン視点で、ゼンと主人公の絡みは少ないです。 またゼンと主人公は付き合っている前提のお話となります。
最後にここまで、読んで下さりありがとうございました。 18章の展開からの個人的な希望的妄想ですので、メインストーリーと切り離して読んで頂けると嬉しいです。

1月12日。

例の事件が終息してから半年たった。

恋花市は今まで恐怖に包まれていた。しかし、ある日を境に事態が急速に良い方向へと向かった。
幸せと笑顔が戻り、街に活気が溢れていた。

しかし、そんな幸せに満ちた世界で、一人だけ取り残されている人物がいた─。


先程まで誰もいなかった部屋に、突然人が現れる。
それは、ゼンだった。

ゼンは深くため息をついた。それから
キッチンに向かい、一口水を口に含む。

あれからどのくらいの時がたったのだろうか。

あの出来事の後、ゼンは病院で目を覚ました。
医者に、彼女はどこにいるのかと聞いたら、集中治療室にいるという。
慌てて彼女の元に行くと、いくつもの管に繋がれた彼女が横たわっていた。
顔は青白く、生気がまったく感じられなかった。

その後のゼンは、何度も未来に行き、彼女が目を覚ます方法を探していた。

必ず見つけ出して取り戻してみせる。
大人になった彼女を見つけ出せた。雷に打たれた彼女を救うこともできた。今度だってできるはずだ。

そう自分に言い聞かせ、再び時空を飛ぼうとすると携帯にメール着信の音がした。


「…誰だ。」

時計に目を向けると、今は22時。こんな時間に誰が連絡をとってくるのだろうか。

「…っ。」

その送り主に目をやると、思ってもいない人物だった。
それは、彼女のメールアドレスだった。
なぜSMSではなくメールなのか。誰かのいたずらなのか。

ゼンはすぐに彼女に電話をする。
しかし無機質な機械音が流れ、留守番に切り替わる。

いたずらか、もしくは『彼女』か。
いずれにせよ、彼女が関わっているのなら、このメールを開くしかない。

そう考え、ゼンは彼女からのメールを開いた。
そこにはこう書いてあった。

『ゼンCEO。報告書を自室のデスクに入れました。10分以内に確認してください。』

報告書だと?
そんなもの催促などしていない。
しかし確認しないわけにもいかず、自室に向かう。

自室のデスクを開けると、目覚えのない封筒が入っていた。
封を開け、中身を取り出すと、彼女の字で書かれた、1枚の報告書だった。
しかしその報告書は、仕事に関する物ではなかった。
そこには、『ゼンの良い所』と書いてある。

「…あいつは一体何を考えているんだ…」

何か彼女のメッセージがあるのでは。そう思い、ゼンはすぐに目を通した。
しかし、それは本当に文字通りの内容しか書かれてない。

『本当は優しくて、思いやりに溢れている人。

仏頂面で怖そうに見えるけど、本当は感情を押さえてるだけで、笑顔が素敵な人。

人にも、動物にも、慈しみがあり、とても優しい人。

ゼンの作る料理は逸品、プリンは世界一の美味しさ。

私の、大好きで愛する人。』

その内容は、優しさに溢れていた。

いつかだったか、彼女はファーレイのSNSに書き込みをしていたのを思い出した。それからSouvenirのレビューにコメントさせた。
あの時の彼女は俺のために、必死になって書き込んでいた。
その姿がとても愛おしかった。

これも、俺のために、必死に書いたのだろか。
思わず涙が出そうになるのを、堪える。

「…ばか。どうしていつも直接言わない。」

そんな言葉はもう誰にも届かない。

ふと見ると、最後の方にこう書かれていた。

『寝室に行って、クローゼットを開けてください。』

今度は寝室のクローゼットだと…?

言われた通り寝室に入り、クローゼットを開けると、中から大量の柴犬のぬいぐるみが転がり出てきた。

「…なんだこれは。」

先ほどの涙が、呆れからか引っ込んでしまった。
あいつは一体何をしている。俺をからかって遊んでいるのか。

大量の柴犬の中に、一つだけボロボロの柴犬がいた。
それはファーレイの屋上で彼女から貰った物だ。
辛い時、嬉しい時に、と貰った。

あの時は、まだあいつは、俺の気持ちに気づいていなかったが…今はお互いの思いが繋がっている。

ふと見ると今度は柴犬にメモが貼り付いていた。

『Souvenirに来て。』

彼女の字でそう書かれていた。

罠かいたずらか。もうそんなことどうでもいい。
彼女の残した茶番に少しでも、付き合いたかった。
そうすれば、彼女に会える。
ゼンは何故かそんな気がしてた。

そう思い、俺は柴犬を握りしめて、Souvenirに向かった。

Souvenirは真っ暗だった。誰かがいる雰囲気ではない。
鍵を取り出し、扉を開け、電気を付けながら足を踏み入れた。

『パーンッ!』

なぜか目の前でくす玉が弾けた。
そして、そこには、『Happy Barthday ゼン!』と書かれていた。
店内はごちゃごちゃと飾りつけがされている。

その時、ハロウィンの時の彼女の飾り付けを思い出した。楽しそうに店内を飾り付けしていたのを覚えている。

時計を見ると、1月13日0時の30分前。
そうかもうすぐ俺の誕生日だったからか…。
こんな奇想天外な方法はあいつにしかできない。

テーブルの上に、手紙が置いてあった。

『お誕生日おめでとうゼン!
お誕生日に間に合えたかな…?

これをゼンが読んでいるってことは、私はあなたの傍にいないんだね。
ゼンのことだから、きっと自分を犠牲にして私を必死に探しているんでしょ?

ゼン、もっと笑って。私との思い出を忘れないで。
だから私からの誕生日プレゼントは、私とあなたとの思い出。

…来年の誕生日はゼンの隣にいられるといいな。
そしてもっと驚くような誕生日にしてあげる!

最後に、ゼン誕生日おめでとう。
あなたに祝福がありますように。』

数々の思い出がゼンの中に駆け巡る。
SNSに書き込む彼女。フランス語を一生懸命勉強する彼女。ピアノを弾く彼女。映画の真似事をする彼女。ホテルで彼女とした約束…。

もう涙が堪えられなかった。

ゼンは立ち上がり、Souvenirを飛び出した。


ゼンはまっすぐに彼女がいる病院へと向かった。

病室に入ると、やはり彼女は眠っていた。
月明かりに照らされ、とても綺麗だった。

ゼンは彼女に近づき、そっと抱き締める。
その体は暖かく、柔らかく、すぐに壊れてしまいそうなほど、か弱かった。

彼女がくれた思い出はどれも大切で、かけがえのないものだ。
それを彼女は、自暴自棄になっていたゼンに思い出させてくれた。

だが…

「どんな思い出も、おまえがいなくては意味がない。俺の誕生日を祝いたいなら、早く目を覚ませ。」

そう言って、ゼンは彼女に口づけた。
どうか、彼女が目を覚ましますように、と願いをこめて。

1月13日に日付が変わる頃、月は二人を照らし出す。
お互いの影が離れようとしたその時、彼女の瞼が震え出し、うっすらと目を開けた。

「…ゼ…ン…?」

「!?」

目を覚ました。願いが現実になった。

「…目を…覚ましたのか?」

信じられず、ゼンば問いかける。
その声を聞いた彼女はふにゃりと笑った。

「…うん。目を…覚ましたよ。ゼン…ただいま。」

その声を聞いたとたん抑えきれず、彼女をきつく抱き締める。
もう二度と手放さない、そう決意するかのように。


1ヵ月後。

「ゼン、誕生日おめでとうー!!」

彼女の弾ける声が鳴り響く。

「ありがとう。」

「ふふっ。遅くなったけど、無事くす玉も作り直せたし、大成功だね!」

そういって彼女ははしゃいでいた。
つい最近まで寝ていたというのに、元気なものだ。

「でも、ケーキは私が作りたかったなぁ。」

「ばか。おまえにケーキを作らせたら、Souvenirが吹っ飛ぶ。」

「ちょっと!!」

いつものやり取り。いつもの軽口。
そんな平和で穏やかな日々だった。

目を輝かせて、ケーキに蝋燭をたてる彼女を、ゼンは優しい眼差しで見つめる。

「できた!ゼン!火を灯すから、願い事を思い浮かべて、吹き消して!」

そういって彼女はケーキを差し出した。

ゼンは、ケーキに近づきそっと火を消す。
これからもこんな穏やかな日々を彼女とずっと一緒に過ごせますように。そして彼女との思い出を沢山作れますように。
そう願いながら。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました! 18章直後のあの展開から、どうしてもゼンに幸せになって貰いたく、書かせていただきました。 Souvenirはフランス語で「思い出」という意味があることから、今回このようなお話になりました。 ゼンの誕生日お祝いとしては、あまり相応しくないSSとなってしまいごめんなさい。 最後まで読んでいただきありがとうございました。